SAMPLE SITE

更新日:

山の気温や場面に合わせて体温調節をする着こなし術を紹介

気温を自分の体でキャッチできますか?
山歩きという体験が体をなにがしか変化させる、という証拠をみなさんにお見せするには、体を温度計にしてみるのが一番いい。 一番微妙なのは10℃という温度だが、これは山歩きでは「暖かい」と「寒い」の境界と意識したい。

体感温度は風によって変わるということはご存じだと思う。風に吹かれると、手が冷たさでいくぶんかじかむ感じがするのに、風がなければほとんどそういうことを感じない、という温度なのだ。もちろん個人差を厳密に考えれば、正しく10℃かどうかはあやしい。しかし一種のゲームのようにやってみると、自分の手で計る10℃の感じがあんがい明確になってくる。結果が正しいかどうかより、その温度帯のどこかに、はっきりとした感覚の山を自分なりにつかまえることに意味がある。それがジャスト10℃ならお見事ということだ。

10℃あたりで手がかじかむ、というおおざっぱな目安なのだが、紅葉の時期にこの感覚が重要になる。素手で歩いていて冷たさを感じたら、そこからはいくぶん守りの態勢を考える。もし雨が降ってきたら、早めに雨具の手配をするとか、下りにかかるときに1枚着るとか、それ以前ならもうしばらく成り行きにまかせたいところで、早め早めに防御の態勢を取るようにする。

防水だが通気性もあるゴアテックスの雨具にしても、10℃を境にして役割が変わってくる。 外気温が10℃だと体温との温度差は、およそ26℃になる。その時、暑いと感じたら首まわりを開けて、暖まった空気を上に抜けさせると、下から冷たい空気が入ってくる。そういう暖かい空気と冷たい空気の温度差による循環を利用することが可能になる。

真夏の日本アルプス稜線の夜明けは、気温10℃前後のことが多いのだが、日の出を待っていると、体が冷えてガタガタと震え始める。ゴアテックスの雨具をウインドブレーカーとして着て、首まわりをがっちり固めて体温が逃げないようにしないといけない。 もっと寒くなって、手袋がないと我慢できない温度の目安が5℃だ。関東平野周辺の低山では、冬の山のありふれた気温ということになる。手がかじかんで、使えなくなってしまう。

プロガイドの友人に聞いた話だが、秋口の北アルプスでうずくまってボーッとして、危機感をすでに失っている登山者を発見したのだそうだ。正気に戻してみると、ザックの中に温かい飲み物や手袋やセーターが入っていたのに、横着しているうちに、手がかじかんでそのザックを開けられなくなっていた。もたもたしているうちに体温が下がってしだいに思考力が失われて、そのままトロトロと行動力をなくしていく寸前だったという。疲労凍死への入口にいたという。 5℃という温度では、風のあるなしにかかわらず、外気にさらした手はすぐにかじかんでくる。なによりもまず手袋が重要になる。

5℃以下のところでは素手を外気にさらさずにすむように、薄手の手袋をする。手袋をしたままでボタンをかけたり、はずしたりできる程度の薄手を、手袋のいわば肌着とする。その上に保温用の手袋をするのである。で、この手袋にはゴム輪をつけて、はずしても手首にぶら下がった状態にしておく。これをしておかないと、高い確率で手袋をなくしたり、ぬらしたりしてしまう。

さらにゴアテックスのシンプルなミトンを非常用として持っておくと、手が凍えてきたときにいい状態にまで復元するのに有効だ。 しばらくすると手が暖まってくるのは、やはり透湿防水という機能による。汗に由来する手袋の湿りを取ってくれるのが効いてくる。 それでもどうしょうもないときには、肌着の役割の手袋にカイロを貼ってやる。 気温が5℃を割ったら、寒さに対しては守りに徹する態勢が必要になる。


手袋は絶対に手放さない
雪の山で、たとえ叱りつけてもみなさんにきちんと守ってもらうのは、手袋を一瞬たりとも手放さないことだ。 たとえば鼻水が出てきたのでポケットからティッシュを出して鼻をかむというとき、手袋をはずしてザックの上に置くなんて、もってのほか。脇だとか股にはさむというのも許せない。ポケットなり、ザックになりいちいちしまってから次の動作に移ってほしいのだ。

ちょっとした風が吹き抜けるだけで、手袋が飛ぶ。なくなる危険ももちろんあるが、雪の中に落ちるだけでも、ぬれる可能性がある。そういうタメージから逃れられない場面を想像してほしいのだ。 だから手袋は脱いでも手からはずれないように、ゴムひもで手首につけておきたい。手首の、脈をとる位置(掌との付け根あたり)に、手袋の裾をめくって輸にしたゴムひもをつける。長さ20センチのゴムひもを輸にしてみていただきたい。 裾の長いオーバーミトンのたぐいも、たいていうまく手首にぶら下がる。

1日の着こなしをシミュレーション

山ではこまめな脱ぎ着をしての体温調整が必須。 シミュレーションを参考にウエアの出し入れがしやすいパッキングを考えよう。

歩き始め
ベースレイヤー
ボトムス
インシュレーション
歩き始めは早朝になることが多いので、肌寒い気温の日もある。寒いと感じたら迷わず上着を羽織って歩き始めよう。体温が上がらないまま歩き続けるのは体力を無駄に消耗してしまうことに。一番心地良いと思える状態をキープしよう。

歩き慣れたら
ベースレイヤー
ボトムス
暖かいなと感じた時点で上着を脱ごう。背中や脇の下に汗をかいてしまったら少し遅過ぎだ。ベースレイヤーとインシュレーションの間で水蒸気がこもると多少だけれどもウエアの重量が増えてしまう。逆に寒くなったらまた上着を羽織ること。

悪天候になったら
ベースレイヤー
ボトムス
アウター
インシュレーション
雨を感じたらすぐに防水アウター、もしくはレインウエアを着用すること。もう少し降ってきてから、という心構えでは、本降りになった途端、あっという間に濡れてしまう。濡れてから羽織るとアウターの中に水蒸気がこもってしまって心地悪い。早め早めのケアが大事。

登山の重要ポイントのひとつに「体温調節」があげられる。通気性、透湿性、保温性。どんなにウエアの性能が高くても、各人の体温感覚にジャストフィットするウエアは残念ながら存在しない。機能ウエアをこまめに脱ぎ着してベストな状態を保ち続けることも山登りのテクニックのひとつなのだ。 基本は薄手のウエアを重ねること。手っ取り早いからと半袖シャツの上にいきなりアウターを重ねても暖かくならないので注意。

慣れてくると、脱ぎ着を頻繁にするからフロントポケットにジャケットが挟めるパックパックが必要かもとか、バックパックを下ろさずに脱ぎ着できるウエアが欲しいな、などと実用の面から欲しいアイテムも見えてくる。 慣れないうちは正直面倒だ。しかし後々トラブルを招かないためにも、レイヤリングでの体温調節はしっかり行いたい。

雨具は雨専用じゃない

外気から体を守る多用途装備だ
ウエアについてはもうひとつ、紅葉の時期を越えて、さらに冬まで山歩きを続けようという人には、透湿防水の雨具を買ってもらう。 最近は種類も増えたのでどれがいいかむずかしいところだが、ゴアテックスの一番薄いタイプのレインウエアを基準にしている。上下セットで2万円から2万5000円はするので、これから冬を越すという段階でないと高価な買い物という感じがする。

それを「雨具」とは考えていない。雨だから着るというのではなく、体に負担がかかってくる寒さや、湿り気や、風や、あるいは肌着を湿らせてしまったときの着干し(身につけたまま、体温で乾かしてしまう) のために、いうなればドライ換気機能を備えたバリアスーツとして利用したいのだ。外界の気温や風から、体を防御するためのバリア(壁)として使えるということ。安易に雨具として使うと「なんだ蒸れるじゃないか」ということになるけれど、体温と外気温の温度差で使い方が変わってくる。

目安は気温10℃ 。体温との差が26℃あるとして、首筋にすき間を作ってやると、体温に近い空気は上昇して抜けていく。すそまわりにもすき間を作って下から冷たい外気が入ってくるようなトンネル構造にしてやると、驚くほど効率のいい換気ができる。

ところが梅雨時に単なる雨具として使おうとすると、気温が高くて、風のない森林中だと、Tシャツ一枚で着たとしても内側からびっしょりになる。

どうするか。着なければいいのだ。大量の汗をかく登りでは貧弱な雨具で登り、下りにかかったら雨の中で湿った服を乾かしつつ、体も守るバリアスーツとして着る、という方法をすすめたい。結果として服が乾ききることはないとしても、湿った服を着ていることによる体への負担は大幅に軽減される。体を湿らせてしまって、風邪をひきそうといった場面では、素晴らしい働きをしてくれる。

で、もちろん、雨具として積極的に使う状況も当然ある。夏のアルプス稜線のように横殴りの雨に襲われる危険がある場合。それから気温が10℃を割るときの雨。いずれもいったん無防備な状態でぬれてしまうと、回復のためにかなりのエネルギーをとられることになるから、早めに安全パイを打っておきたい。このためにも前項の体感温度計をものにしておきたい。

雨だから着るのではなく、カラダへの負担が大きくなりそうな予感があるから着る、という考え方をしたいのだ。冬には持つべき着替えを最小限度にするために、透湿防水のバリアスーツが生きてくる。