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登山で疲労をためないために糖質をとって水を飲もう

燃料切れによる疲労は大敵だ。食べないと筋肉が壊れる
人間は糖質と脂質をエネルギーとして運動を行っている。その貯蔵量には大きな違いがあり、脂質は約7.4日活動できるほどの量があり、それに比べ糖質はほんの1.5時間動ける分しかない。だが、脂質だけに頼って運動はできない。必ず糖質とセットでエネルギーとして使われるのだ。

仮に脂質と糖質を半分ずつ使うとすると、約3時間でエネルギー切れを起こしてしまう。クロスカントリースキーの選手が、朝食を摂った日と、摂らない日に登山と同程度の運動を行ったときの血糖値と「つらさ」の比較。朝食を摂れば楽にできる運動が、摂らないと非常にきついものになってしまう。だから山を歩くときは、必ず糖質たっぷりの朝食を摂りたい。

ただ、カラダは糖質が減ったときに手をこまねいているばかりではない。それに対して防御反応が起こる。それが、タンパク質を分解して糖質を作りだすということ。 そして、まっさきに分解されるのが筋肉なのである。糖質を補給せずに歩くことは、筋肉を削ってエネルギーを得ることにほかならないのだ。

筋肉が分解されたときに発生する尿素の量を調べたものだが、高炭水化物食を摂取して運動した場合と、低炭水化物食を摂取して運動した場合とでは、尿素の量に2倍以上の差があった。それだけ筋肉が壊れたということ。健康になろうと登山を始めても、これでは逆効果になってしまうのである。朝食、行動食(歩いている途中で食べる食品)は必ず摂りながら、山を歩いてほしい。不足なく摂っていけば、疲労をあまり感じないで済むし、筋肉を傷つけることも防げる。

水は必要な量をのどが渇く前に飲む

山を歩くときの水分補給は必須。怠るととんでもない目に遭う。体内の水分が減ると、血液量も減り、血圧が下がる。すると、心臓1拍ごとに押し出せる血液量が減ってしまう。

そこで、代償として心拍数が高くなる。高血圧や心臓に不安を持つ人には大きな問題だ。同時に、血液中の水分が減ると、血液の粘度が上がり、エコノミークラス症候群のように、血栓症を起こしやすくなる。さらに、暑い環境で給水をしないで運動をすると熱中症に陥ることがある。体内の水分が少なくなると、汗をかくことができなくなり、カラダの熱を放出しづらくなる。疲労感、倦怠感、息切れなどが起こり、それでも水分を補給しないと体温が上昇を続けて熱射病となり、死に至るケースもあるのだ。

水をまったく飲まない場合と、好きなときに水を飲む場合、それにかいた汗と同量の水と塩を飲ませた場合の体温の上昇を調べた。水を飲まないのは論外だが、自分で好きに飲める場合でも、十分に摂取できていない。 ということは、自分が思っている以上の水分を積極的に摂る必要があるということなのだ。また、水分の摂取による心拍数の上昇を調べた。 こちらも、水を飲まない場合は急激に上昇しているのがわかる。

では、かいた汗と同量の水分とは、実際にどの程度の量なのだろう。 たとえば、60kgの人が1時間歩いたら300mlの水を補給したいが、一気に全部を飲むのでなく、何度かに分けて飲むようにしたい。といってもこれはあくまで一例で、飲み方のコツは、喉が渇いたと感じる前に飲むということ。喉が渇いたと感じたときは、もう初期の脱水状態に陥っているからだ。とにかく、小まめに必要量を飲んでいく。これが山歩きでの水分補給の鉄則なのである

冷たい飲み物のややこしい科学と賢い利用法
夏になるとみなさん、冷たい飲み物をもつ工夫をいろいろしている。保温水筒に氷を入れて冷たい飲み物をつくってくる人もいるが、それよりは水筒に水を入れて凍らせて持ってくる人のほうが圧倒的に多い。 気持ちはわかるが、どちらもあんまり賢くない。

100mlの水を20℃から0℃まで下げたとすると、冷やすために必要な熱量はおよそ2000カロリーとなる。 1mlの水の温度を1℃上下させる熱量が1カロリーだからだ。その2000カロリーのうち1000カロリーが失われたあたり(10℃)までに飲むと、水は冷蔵庫で冷やした程度の心地よい冷たさになっている。

ところがその100mlの0℃の水を0℃の氷にするためには8000カロリーも必要になる。冷凍庫にしばらく入れておかないと完全には氷にならない。 逆にいうと、100mlの0℃の氷が0℃の水に戻るためには、8000カロリーの熱を受け取らなければならない。その氷を20℃の水に入れて0℃まで冷やそうとすると、400mlの水を冷やせる計算になる。氷がちょうど溶けたころ、400mlの水は500mlに増えて0℃になっていると考えていい。冷やす温度が10℃でよければさらに400mlの水を加えることができる。

つまり、氷を溶かしながら冷たい水をすすっている人たちは、大きなエネルギーを無駄にしているばかりか、冷たい飲み物をたっぷり飲めるという権利をやすやすと放棄しているだけではない。氷を溶かすために外気にさらしているので、水筒の周囲は次から次へと結露する。外気中にある水分が、際限なく水になるので、タオルなどを巻いてぬれを抑え込もうとする。そういう不思議な行動があちこちで見られるのだ。