登山で感じる年齢に打ち勝つための具体的な方法
足回りは柔らかいほうがいい年をとると急登に弱くなる。毎分5メートル(毎時300メートル)の上昇が維持できなくて、斜面が急なところでは毎分3メートルまで落ちたりする。 急登がなければ周囲にそれほど迷惑をかけないが、「いつどこで、みなさんの足を引っ張ることになるかも」という気持ちが、だんだん強くなってくるらしい。すなわち「引退」の時期を探り始めてしまう。
いわば最後のあがきという感じで、軽登山靴を軽い防水運動靴に切り替えると、どうだろう。よみがえったのだ。 足にかかる重さは、背中にかかる重さより負担が大きいといわれる。だから靴が軽くなってパワーアップした、というのが印象らしい。 靴が軽くなったことの利点はもちろんある。しかしもっと大きいのは、軽い靴はすなわち柔らかい靴であるという点だ。
年をとると筋力が落ちる。と同時に、バランスが悪くなる。そのバランスの衰えのほうが、大きく見える。登りでスピードが落ちるのと同時に、下りで安定感が失われていく。 本人の感覚では力が衰えていくというものらしいのだが、見ているとひとつひとつの動きにムダが多くなっていくように思われる。
重心を移動したあと、軸足1本でピッと立って次の動作に移りたいのだが、移れない。そのときの動きのムダに当然筋力が使われている。大きな力を出すのと、バランスをとるのでは、別の筋肉が使われるという。その切り替えによって、筋肉は交代で休めるのに。
要するに、手持ちの労働力のやりくりにだらだらした感じが漂っている、というふうに見えるのだ。柔らかな靴をはくとどうなるのか? 足裏が地面をつかむ感触が向上するので、軸足の重心が安定してくる。それが動きのブレをなくして、ムダな力をセーブする。 つまり感度のいい歩き方になっていく。登山靴系のすべての靴が意図的に捨てている機能がそこにはある。
目を暗視スコープモードに切り替える
肉体の衰えを感じるのは、早ければ25歳ぐらいか。特別な運動選手でなくても、傷の回復などがガクンと遅くなることに気づいたりする。
40歳代だと、積年の不摂生がどうにも抑えきれないで倒れるという人が多い。死ぬの生きるのというほどではないにしても、そこで心を入れ替えないと寿命がどんどん縮まっていく。 老化を感じるのは50歳代からだろうか。このあたりになると、その人の精神構造によって違うが、65歳過ぎまでゆるやかに低迷していって、ガクンと老人になる危険をはらみはじめる。
で、その老化のひとつに視力の変化があるわけだが、山の中で暗闇に目を慣らしてみると、衰えつつある肉体とはいえ、まだまだ未開発、あるいは発展可能な能力が潜んでいるということを痛感する。これが無灯火下山の陰のテーマということになる。
老眼だからといって暗視野能力を失ったわけではない。視細胞の全体の能力をふだん気にしていないだけのこと。 同じことが、筋肉にも、血管にもありうるということを知ると、年をとってもまだ、未来が残っているという気持ちになる。モードの切り替えが人を若返らせるという象徴なのだ。
